被服室にて

「次は被服室でも行ってみようかな。たしかあそこには・・・・・・手芸部か。ああ、あの奥山先生が顧問してるとこだったな」
普段とは違って、人通りの多い廊下の隅で学園祭のパンフレットを眺めながら、次に訪問する部屋をいろいろと検討してから、俺はそうつぶやきながら顔を上げた。
いつもは生徒たちに注意を向けながら歩くこの廊下も、こんな日ぐらいは、多少羽目を外していても、とやかくうるさく言わないことにしていた。だから、ちょうど今、俺のすぐそばをはしたないぐらいに短いスカートをはいて、三年生の子が通り過ぎていったが、顔をしかめるだけで小言を言ったりはしなかった。それでも、そんな俺に気が付いていたのか、その子は気まずげに体をすくめて通り過ぎていく。
って、なんだ、それは? なぜ、廊下の真ん中でくるりと一回転してみせた? 俺にウィンクなんかを送ってどうするつもりだ? その投げキッスはなんのつもりだ?

最近の子の考えていることはさっぱり分からない。どういうことなんだ?
とにかく、今すぐ追いかけていって、さっきの子に、
『長い歴史と伝統が受け継ぐこの学園の生徒だという自覚を持て』
そう叱りつけたい・・・・・・ けど、今日はぐっとこらえる。
一度、深呼吸して、気持ちを落ち着けて、再び認股權證廊下を歩き始めた。

被服室。手芸部の主な活動場所だ。
手芸部の学園祭といえば、毎年、部員たちが手作りしたかわいい小物を販売したり、ファッションショーを開いたりと多彩な活動をしている。
――ああ、そういえば、今年もぬいぐるみ製作したのか?
手芸部では、毎年、学園での出来事や人物をモチーフにしたオリジナルのぬいぐるみを製作して、被服室内に展示する。そのぬいぐるみは、モデルになった学園内の人物の特徴をよくつかんでおり、パッと見ただけでも、それはだれをモデルにしているのか、すぐに分かるできになっていた。

去年はたしか、校長先生が全校集会のとき、講堂で足を滑らせて転んでしまい、かつらがずれてしまった場面だった。もちろん、あの時はだれもがそれを見なかったフリで通したし、本人に聞かれるような場所で話題にしたりはしなかった。
だが、よりにもよって、そんな場面を再現したぬPretty Renew 價錢いぐるみが展示されていたなんてな。そのことは、当然、だれも本人には告げなかったはずだし。校長先生が去年の学園祭の期間中、被服室を訪れたという話は聞かなかった。だから、本人はまだ教師全員や全校生徒がかつらのこと知っているなんて夢にも思っていないのだろう。
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